「顔認識技術を禁止せよ」 黒人差別を受けハイテク大手の対応は?
「顔認識技術は有害だ」「顔認識技術の利用を禁止せよ」──このような声が米国で高まっている。巨大テクノロジー企業の米IBM、Amazon、Microsoftは相次ぎ警察など法執行機関への顔認識技術の提供を中止すると発表した。
「顔認識技術は有害」との表現に抵抗を感じる読者もいるかもしれない。「技術それ自体は善でも悪でもない」と考えるのが従来の常識だったからだ。だが時代は変わり、情報技術は大規模適用されて社会に影響を及ぼしている。いまや技術と倫理・人権の距離は非常に近い。機械学習に基づく顔認識技術には人種差別、性差別が組み込まれており、使い方によっては社会から排除されがちな人々をより脆弱(ぜいじゃく)な立場に追いやる危険性が指摘されている。
引き金を引いたのは、2020年5月25日に米ミネアポリスでアフリカ系アメリカ人ジョージ・フロイド氏が、警官に首を押さえつけられ死亡した事件だ。人種差別に反対する運動が広がり、人種差別の要素を持つ技術への批判も高まった。以前から顔認識技術は「人種差別、性差別を助長する」との批判があった。事件を機に大手テクノロジー企業が顔認識技術の提供中止に追い込まれた形だ。
なぜ、これほどまでに顔認識技術への批判が高まっているのか。
顔認識にひそむ人種差別、性差別
画像を使って人間の顔を識別する技術「顔認識(facial recognition)」には長い歴史があるが、最近になってその問題点が指摘されるようになった。
1点目に、顔認識技術は市民の監視に利用されやすい。米国の警察は人口の半数をカバーする顔画像データベースを持っているといわれている。街頭の監視カメラやソーシャルメディアで流通した写真などと付き合わせれば、簡単に個人を特定されるおそれがある。
2点目に、米国の警察はアフリカ系アメリカ人などマイノリティを標的にしがちな傾向があるといわれている。顔認識技術の利用は、差別されている人々を「より脆弱(ぜいじゃく)な立場」に追いやるために使われる可能性がある。
3点目に、白人男性に比べて、アフリカ系アメリカ人やアメリカ先住民族に対する顔認識技術の認識率は低く、誤検出の可能性が高い。このため警察による誤認逮捕などに結びつくおそれがある。
このように、顔認識技術は個人のプライバシーを侵害する懸念が高く、人種差別、性差別を固定化し拡散する性質があると考えられている。
米国での論調は非常に厳しい。「顔認識技術は有用性より有害性がはるかに上回る危険な技術である」と強く主張する論文も出ている。大規模監視と、脆弱な人々をより脆弱な立場に追いやり格差を固定する性質があることから、機械学習に基づく顔認識技術そのものが批判されているのだ。関連して、19年11月に米紙New York Timesが報道した、中国ウイグル自治区の少数民族弾圧で顔認識技術が使われた事実も、顔認識技術そのものへの懸念につながっている。
リンク:https://news.yahoo.co.jp/articles/f9f04cfd53304cc00347c61a86e003c71950d17a
[単語]
1.ハイテク:【high technology】「ハイテクノロジー」の略。
2.相次ぐ(あいつぐ):物事があとからあとから続いて起こる。
3.脆弱(ぜいじゃく):もろくて弱いこと。
4.引き金を引く(ひきがねをひく): 銃などを発砲する際に必要な金具を引くことを意味する語。 転じて、事件や問題などが生じる原因などを引き起こすことを意味する。
5.追い込まれる(おいこまれる):逃げる道をふさがれること・몰아넣다.
6.ひそむ:ひそかに隠れる。隠れて静かにする。内部に隠れて外に現れない状態にある。
7.街頭(がいとう):市街地の道路や広場。町なか。
8.マイノリティ:[minority group]社会的少数者