東京駅、新宿駅であふれる高速バス待ち客 五輪控え対策急務
低料金や綿密な路線網を背景に需要が高まる高速バス。深夜に出発し早朝に目的地へ到着する便も多く、「眠っている間に着いて時間的ロスも少ない」として訪日外国人客らにも人気だが、首都の玄関口・東京駅や新宿の主要乗り場ではバス待ちの環境整備が追いつかず、週末の夜ともなると待合室に入りきらない大勢の人が路上にあふれる異様な光景が広がる。来年には東京五輪も控え、今後も利用者の増加が見込まれる中、改善を望む声が相次いでいる。
■「時間の無駄」
JR東京駅八重洲南口の「JR高速バスのりば」。4月半ばの平日の夜にもかかわらず、スーツケースを抱えた利用客らが行き場をなくし、路上に群れをなしていた。花壇の縁や、駅構内の床にそのまま座り込んでいる若者の姿も目につく。大阪府寝屋川市の50代の姉妹は、コンサートで東京を訪れた。午後9時半前の新幹線最終に間に合わず、高速バスを選択。翌日は仕事で、着替えなども済ませたかったが、着替える場所を探すのに手間取ったという。「食事をゆっくり取る時間も場所もないので歩きながら食べることもよくある。ゆっくり待てる場所があるといいんですけど」と、口をそろえる。買い物で東京に来て青森まで帰る予定という女性(23)も、途方に暮れていた1人だ。近くのファストフード店で時間を潰そうとも思ったが、そこもバス待ち客で満席。「もう少し待てる場所はないんですかね」と、ため息をついた。
■1万人が50席奪い合う
国土交通省によると、高速バスの運行系統は平成3年度は1093しかなかったが、26年度は4996まで増加した。バス網の拡大とともに、利用者も3年度の5万7213人から、26年度は11万5703人にまで増えている。ただ、バス待ちの環境整備は追いついていない。東京駅八重洲南口に乗り場が整備されたのは25年12月だが、切符売り場内の待合所の収容人員は50人ほど。平日は550本超、土日は600本以上が発着し、利用者は各平均で約9000人と約1万6000人にも上るため、収容力が圧倒的に不足している。周辺にはベンチもなく、飲食店の多くも午後11時ごろには閉まる。必然、夜間の乗り場には恒常的に乗客があふれるが、乗り場を管轄するJRバス関東は、「(待合室の)増設などは今のところ予定していない」としている。
■千便超にトイレ7室
28年に開業した新宿駅直結の交通ターミナル「バスタ新宿」も、同様の問題をはらむ。最大で117社のバスが乗り入れ、1日当たりの平均発着数は約1500便に達するが、待合室の席数は344席。さらにトイレの個室は女性21室、男性が7室。女子トイレはオープン直後の8室から増設されたが、トイレ待ちの列が途切れることはない。《東京駅の待合室狭すぎ 満員電車かよ!》《バスタ新宿こみすぎ 座って待てる場所もない》《東京駅には夜行バス難民であふれている》。インターネット上には、ツイッターなどで利用者の“苦情”が数多く書き込まれている。なぜ、環境が整わないのか。高速バス事業のコンサルティングを行っている「高速バスマーケティング研究所」の成定竜一代表は、「ターミナル(の待合室を拡充するなど)の環境を整備すると、不審者らが居座る危険もある。ターミナルは多数の事業者が共同利用しており、誰がお金を出して管理するのかも難しい問題だ」と指摘する。来年夏には東京五輪・パラリンピックが開催される日本。新幹線や飛行機よりも安い高速バスを利用する外国からの訪問客は多いとみられる。成定代表は「課題はあるが、東京五輪も控えている。改めて(高速バスの)環境を見直す時期にあるのかもしれない」と話した。
リンク:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190515-00000501-san-soci
【単語】
1. 綿密:詳しくて、細かなこと。注意がすみずみまでいきとどいて、手抜かりがないこと。
2. 路線:一地点から他の地点に達する道路、鉄道、自動車などの道筋。
3. 高速:速度の速いこと。高速度。
4. 深夜:真夜中。よふけ。
5. 玄関:玄妙な道に進み入る関門。
6. 大勢:たくさんの人。多人数。
7. 路上:道の上。道のほとり。みちなか。
8. 異様:ようすが普通でないさま。変わっているさま。
9. 光景:目に映る景色や物事のありさま。
10. 無駄:役に立たないこと。それをしただけのかいがないこと。また、そのさま。