ホンダと日産 経営統合へ協議 競争力強化につながるか
2024年12月18日 18時58分 自動車
EV=電気自動車などの分野で海外の新興メーカーの存在感が高まる中、ホンダと日産自動車が経営統合に向けて協議を進めていることがわかりました。統合が実現すれば、世界3位の巨大自動車グループが誕生することになります。
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関係者によりますと、両社は持ち株会社を設立し、それぞれの会社を傘下におさめる形で、経営統合する方向で協議を進めているということです。
両社はことし3月に包括的な協業に向けた検討を始め、8月には次世代の車に欠かせない車載OSなどのソフトウエアの開発やEVで、部品の共通化を進めることで合意していました。
今回、両社が経営統合に向けて協議を進める背景には、EVや自動運転、それに車のソフトウエア開発など新たな分野の競争が激しくなり、アメリカのテスラや中国のBYDなどの新興メーカーが存在感を高めていることがあります。
両社はこうした競争を勝ち抜くために必要となる巨額の開発費などを分担するとともに、互いの強みを生かして競争力を強化する狙いがあるとみられます。
去年1年間の販売台数はホンダが398万台で世界7位、日産が337万台で世界8位ですが、両社を合わせると735万台にのぼっていて、統合が実現すれば世界3位の巨大グループが誕生することになります。
両社は経営統合に向けて近く基本合意書を締結する見通しで、日産が筆頭株主になっている三菱自動車工業が加わるかどうかも焦点になります。
ホンダ社長「協業含めて検討 決まったものはない」
ホンダの三部敏宏社長は18日朝、記者団に対し「協業含めて今、検討していて、その他の可能性についても話はしているが、決まったものはなく、公式に発表した事実もない。何か決まったものがあれば、お知らせしたい」と述べました。
3社コメント「現時点で決定した事実はない」
ホンダと日産自動車が経営統合に向けた協議に入り、三菱自動車工業の合流も視野にあると報じられたことについて、3社はそれぞれコメントを出し、「当社が発表したものではない。各社の強みを持ち合い、将来的な協業について報道の内容を含め、さまざまな検討を行っているが、現時点で決定した事実はない」としています。
台湾 ホンハイも日産に関心
関係者によりますと、日産自動車をめぐっては、台湾の大手電子機器メーカー「ホンハイ精密工業」も株式を取得するなどして経営に参画しようと水面下で検討していました。
ことしに入ってホンダと日産自動車が包括的な協業に向けて検討を始める中、ホンハイは日産への関心を示したということです。フランスのルノーが日産との資本関係の見直しに伴って信託会社に移している日産の株式の買い取りなどを、検討していたとみられます。
ホンハイはEV事業に本格参入していますが、今後もこの分野を強化していくねらいがあるとみられ、かつて日産で経営幹部だった関潤氏をEV事業の責任者として招いています。
世界の自動車販売ランキング
世界の自動車グループの2023年の販売台数は
▽1位のトヨタグループが1123万台
▽2位のフォルクスワーゲングループが923万台
▽3位のヒョンデグループが730万台
▽4位のステランティスが639万台
▽5位のGMが618万台
▽6位のフォードが441万台
▽7位のホンダが398万台
▽8位の日産自動車が337万台
などとなっています。
ホンダ 貫いてきた独立路線 転換か
ホンダは1948年に創業者の本田宗一郎氏が浜松市に設立し、当初は二輪車を手がけていましたが、1963年に軽四輪トラックを開発。四輪メーカーとしてのスタートを切りました。
その後、アメリカなど世界各地の市場に進出し、去年の世界全体での販売台数は398万台となっています。
三部敏宏社長は、2040年に販売する新車のすべてをEVとFCV=燃料電池車にするという目標を掲げています。さらにEVの開発や販売でソニーグループと提携し、IBMとは車載用の半導体やソフトウエアの開発を共同で行う計画を進めています。
こうした部分的な提携関係はあるものの、ホンダは経営面では独立路線を貫き、これまでほかの自動車メーカーと資本関係を築くことはありませんでした。
今後の日産との協議で、これまでの路線を転換することになりそうです。
統合実現すれば国内は2大グループに
両社の経営統合が実現すれば、日本の自動車メーカーは大きく2つのグループに分かれることになります。
1つはトヨタ自動車を中心としたグループです。ダイハツ工業を完全子会社化しているほか、SUBARUやマツダ、スズキとも資本提携を結び、EVの共同開発や車両の供給などを行ってきました。
これに対して、ホンダはこれまで他社と技術提携などは行っていたものの、経営面では独立路線を取っていました。
一方、日産自動車は1999年の経営危機の際に出資を受けたフランスのルノーとの長年にわたる資本関係を見直して、2023年に対等な出資比率とすることで合意し、これまでの深い関係に変化が出ています。
こうした中でホンダと日産の経営統合が実現し、日産が筆頭株主となっている三菱自動車工業も加わることになれば、もうひとつの大きなグループが生まれることになります。
メーカーどうしの提携 活発化
メーカーどうしの提携の動きは、国内外で活発化しています。
ことし6月にはドイツのフォルクスワーゲンが、次世代の車に欠かせないソフトウエアやEVの分野で、アメリカの新興EVメーカー リヴィアンと提携することになりました。
9月にもアメリカのGMと韓国のヒョンデ自動車が提携してバッテリーの原材料の共同調達や、電気・水素技術の共同開発などで提携したほか、トヨタ自動車とドイツのBMWは次世代の燃料電池の共同開発を行い、2028年から燃料電池車の量産を開始すると発表しました。
日産と三菱の株価 ストップ高
18日の東京株式市場は、日産自動車の株式は取り引き開始直後から注文が殺到して値がつかない状態が続きましたが、午前9時半すぎに一日の値上がり幅の限度となるストップ高の水準で取り引きが始まりました。
その後も買い注文が殺到し、午後に入ってからは株価はストップ高の水準から動きませんでした。
また、日産が筆頭株主となっている三菱自動車工業が今後、協議に加わるかどうかも焦点となっていますが、三菱自動車の株式にも買い注文が殺到し、ストップ高の水準まで値上がりして取り引きを終えました。
本田宗一郎氏の出身地 期待や不安
ホンダの創業者 本田宗一郎氏の出身地の静岡県浜松市では、期待や不安の声が聞かれました。
本田氏は1906年に現在の浜松市天竜区で生まれ、天竜区にある「本田宗一郎ものづくり伝承館」では、各年代のホンダのバイクなどが展示されています。
奈良県から伝承館を訪れた男性は、「企業文化が違う2社が統合することでシナジー効果が生まれそうなので、賢い選択だと思いました」と話していました。
本田氏の実家があった場所に近い菓子店の鈴木美納江店主は、「ホンダの名前が残るのかどうなのかと心配になりました。ホンダの『H』のマークがなくなってしまうと寂しくなる。地元にとっては宗一郎さんの存在は誇りなので、そのスピリットを継承していってほしい」と話していました。
ホンダ 従業員から期待の声
経営統合に向けた協議について、ホンダの主力工場の1つ「鈴鹿製作所」(三重)では、従業員から期待の声が聞かれました。
20代の男性社員は「これから生産が減ったり部品の単価も高くなったりすると思うので、集約したら経営も上向いてよいのではないか」と話していました。
また、エンジニアとして働いているという女性従業員は「過去に日産で働いたこともありますが、ホンダも日産もグローバル企業です。お互いがよくなることを期待しています」と話していました。
専門家 “危機意識が両社を動かした”
30年以上にわたって自動車業界を見てきたナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹さんは、「危機意識が両社の経営統合への道に突き動かしたと思う。自動車メーカーが戦っているのは、アメリカのGMやフォードではなく、テスラや中国の新興メーカーで、重要なものがハードウエアではなくて、ソフトウエアに変わってきている。大きなスケールを持たないと何兆円もの投資を個社でまかなうのは難しい」と話しています。
また、業績が悪化している日産については「構造転換で少し利益が出るようになっても、そんなものでは不十分で、生き残っていけるという未来の希望が描けない。非常に強いパートナーと未来を見据えた改革を打ち出したいといった事情があった」と指摘しています。
その上で経営統合に向けた課題について、「伝統のあるこの2社がプライドや自分たちのやり方に固執せずに新しいものにチャレンジしていく必要があると思う。時代の変革を表す象徴的な大きな事業統合で、この成否が日本の自動車産業の未来を左右すると考えている」と話しています。
【デスク解説】経営統合の狙い 課題は
経済部 岩間宏毅デスクの解説です。
※解説動画 3分24秒、「おはよう日本」18日7時台で放送しました。
※データ放送ではご覧いただけません。
Q 経営統合の狙いは競争力強化?
A そのとおりです。背景には、自動車業界が100年に一度とも言われる激変の時代を迎えていることがあります。世界全体の車の販売台数を見れば、トヨタ自動車やドイツのフォルクスワーゲンなど、ホンダや日産と同じく、昔からの自動車メーカーが今も上位を占めています。
しかし、EV=電気自動車や自動運転といった新たな分野では、アメリカのテスラや、中国のBYDといった新興メーカーが急速に存在感を高めています。
EVの販売台数に限れば、テスラとBYDが世界のトップと2位で、日本メーカーの存在感は高くないのが実情です。また、自動運転の分野でも、米中の新興メーカーやIT大手などの異業種が開発を加速させています。
さらには、こうした車の電動化や自動運転技術の進化にあわせて、車の機能を制御するためのソフトウエア開発の重要性が高まっています。これらの研究開発には巨額の費用が必要となり、大手の自動車メーカーであっても大きな負担となります。
だからこそ、経営統合によって巨額の投資を分担するとともに、それぞれが持つ技術を持ち寄ることで、競争力を高める狙いがあるとみられます。
Q 実現に向けての課題は?
A 日産にとっては、経営統合の協議もさることながら、足もとの業績の立て直しが差し迫った課題です。日産は先月発表した中間決算で、本業のもうけを示す営業利益、最終的な利益ともに90%を超える大幅な減益となりました。
アメリカや中国での販売不振が主な要因で、世界で20%の生産能力の削減や9000人の人員削減を行う計画を発表しています。経営統合によって投資を分担するためにも、立て直しを着実に実行し、収益力を回復することが求められます。
一方のホンダは、アメリカなどで販売が伸びているため、先月の中間決算では、営業利益がその時期として、過去最高となりました。ただ、EVシフトが進む中国市場では、現地メーカーとの競争激化などで販売が減少し、日産と同様に苦戦しています。
これまでの両社の関係者への取材でも、自動車業界を取り巻く環境が激変する中で、1社単独での生き残りは容易ではないという危機感が何度も聞かれました。とくにホンダはこれまで技術提携などは行ってきたものの、自主自立の路線を堅持してきました。
それだけに今回の経営統合の協議入りは、新興メーカーや異業種が参入する自動車業界の厳しい現状を表しています。経営統合に向けた協議の中で、両社が競争力の強化につながる戦略を描けるかが今後の焦点となります。